新たな敵
昨晩のどんちゃん騒ぎはどこへやら…朝の高知はすっかり静けさを取り戻していた。
今日は一度海岸方面に出たあと、土佐久礼辺りから四国内陸の山方面へ進み、四万十川に沿って四万十市(旧中村)まで行く165km。
相変わらずいい天気だ。街中にいる限り台風を意識することなどない。今日も、まずは暑さとの戦いになりそうだ。
しかしまだ8時台だというのに何て言う暑さだろう…交差点で止まる度に核爆発をも想像させるような強烈な光が肌を炙り、日なたは真っ白くコントラストをも失っている。
「アカン、これ死ぬやつや…」
まだ数キロも走ってないと言うのに、高知競馬場近くのコンビニに逃げ込んだ。
それにしても高知のコンビニはイートインコーナーが充実している。ここのコンビニなんて、売り場スペースと変わらないくらいのイートインスペースである。いくらでもゆっくり出来そうだが、今日の工程を考えるとペースを落としている場合ではない。
意を決して出発。
海岸に出ると、昨日よりさらに激しさを増した波が押し寄せていた。さすがに見てるだけで怖くなるくらいである。その波飛沫が数百メートル内陸まで吹き込んでいるのが、街を覆う白い霧の様子でわかる。こりゃ外で自転車を保管してたらあっという間にサビサビだろうな。
土佐市・宇佐の辺りから、細長い内海に沿って進む。
さっきまでの外海の荒々しさが嘘だったかのような、凪ぎの海が広がる。暑さは変わらないものの、心地よい風と平坦な道、そして素晴らしい景観が久々のノンビリポタリング気分にさせてくれた。
びわ湖を見慣れている私にとっては、こんな凪の海の方が落ち着くようだ。太平洋は激しすぎる。しかし3日目ともなると、お尻や手のひらのダメージが徐々に溜まっているのか痛みが強くなってくる。お尻にいたっては擦れてヒリヒリしているので、サドルに触るだけで痛い…。なので、そうなると手首に荷重をかけるようになるのか、親指の付け根部分が痛くなる。景色はキレイで良いのに、それを楽しめないくらい苦痛になってきたのだ。お尻の同じ場所がサドルにあたらないように、数秒ごとに位置を変えたり、立ち漕ぎしたり…。おかげでスピードがあがらない。暑さの次は「痛み」という敵が現れたのだった。
ちょっとした坂を越えて、須崎市に入った。本日最初の道の駅がある街だが、どうやらお店なども色々ありそう。走りながら、お尻と手の対策について考えていた。まだこの先110㎞以上走らないといけない中、この痛みという敵を克服しないと先には進めない。
須崎市内でまずはドラッグストアに飛び込み、「ワセリン」と「化粧用パフ」を購入。ワセリンなんてどこに売っているんだ?と思ったが、意外にすぐに見つかった。化粧用パフも、シリコン製のいかにも私の使用用途にピッタリなやつを発見。これを持って道の駅に向かった。
道の駅「かわうその里すさき」に着くと、土佐らしい水切り瓦が付いた建物が出迎えてくれた。高知市内のコンビニで朝食は食べたが、「トロかつお飯」という、醤油ベースで煮込んだ角切りの鰹をご飯に混ぜこんだ、素朴な郷土料理が売られていた。試食の鰹があまりに美味しかったので購入。
かつお飯を食べ、ワセリンも塗って休憩終了。と言ってもまだ10時、というかすでに10時。まだまだ先は長いのに。
このワセリン&シリコンパフ作戦、なかなか素晴らしい効果を発揮してくれた。ワセリンのお陰で圧迫による痛みは無くならないものの、摩擦によるヒリヒリとした痛みはほぼ封じ込められたようだ。
シリコンパフはグローブと手のひらの間に挟み込んだのだが、さすがシリコン、手のひらにかかる荷重を見事なまでに分散してくれる。
「シリコン、めっちゃええやん!」これで痛みという壁は乗り越えられそうだ。
疲労
須崎を出ると、沿道の民家から「頑張って~!」と小さな女の子が手をふってくれた。こちらも手を振って「ありがとう!」と返す。四国には元々お遍路さんの文化があり、お遍路さんのことを「お四国さん」とも呼んだりする。そんなお四国さんを応援することは沿道の住民の方々は日常なのだろう。あの女の子には自転車に乗った私もお四国さんに見えたのかもしれない。そういえば今日はシコイチジャージを着ていた。この企画が始まってまだ日は浅いが、地元では定着してきたのだろうか?
安和駅の先で海岸線を行く県道と国道に分かれる。推奨コースは海岸線だ。ところが海抜の低い海岸線の道路に設置された防潮堤には、高い波が打ち付け飛沫が舞っている。恐る恐る進んでみると、
案の定、高波のため通行止めになっていた。仕方なく引き返し、国道から土佐久礼を目指すことに。
国道の交差点で止まっていると、高校生くらいのスポーツバイクに乗った集団が反対車線から現れ、私を見て「おお、あれシコイチジャージやん、スゲー!」「シコイチ、がんばれー」と騒ぎながら通りすぎて行った。なんとなく憧れのジャージに身を包んだスター選手にでもなった気分。なワケないか…
国道56号に入るとジワジワと登りが始まり、その先にはトンネルが。しかしそのトンネルには歩道がない。交通量の多い国道で歩道がないところほど怖い道はない。先日も京都の途中トンネルでサイクリストが轢かれたというニュースがあったばかり…。と思ったら、トンネルの手前に「反射用タスキ」と書かれたボックスが設置されており、中には反射材で出来たタスキが数本。主にお遍路さんの安全対策として設置されているものだと思われるが、私も使わせていただいた。四国のあちこちにこういったお遍路さんへの気遣いが溢れていて、それはシコイチサイクリストにとっても、大きな恩恵となっていると感じる。
土佐久礼から先はさらに登りが続いている。というか、ひたすら登りだ。土佐久礼から峠の頂上まで約7.5㎞、だらだらと、ほんとにだらだらと続く。ところどころで「七子峠〇〇㎞」と表示されているが、いったいどこが七子峠なのだ?
と思いながら登っていたが、どうやら今登っている長い登り坂が「七子峠」そのものらしい。
さすがに一度も休憩なしと言う訳にいかず何度も途中休憩しながら進み、ようやく頂上に到着。すっかり時間がかかってしまった。もう正午をまわり、13時になろうかという状況。まだここから90㎞以上はあるのにも関わらず…。
道の駅「あぐり窪川」はもう1㎞ほどで着くが、ふと通りかかったお店に吸い込まれるように入った。地元の定食屋といった雰囲気のどこにでもある普通のお店だが、なぜか店の前には多くの車が停まっている。そして看板や幟がめっちゃラーメン推し。こりゃきっとラーメンがう旨い店に違いない!と感じたのだ。
らーめん(並)を注文。待つこと20分程度か、見るからに「これぞ中華そば!」という、透き通ったしょうゆスープに黄色い麺、シナチクに焼き豚という昔ながらのラーメンだ。お味も奇をてらうことない真っ向勝負のお味。七子峠ですっかり体力を消耗しきった私には、この優しいスープが優しく包み込むようで、大変美味しくいただくことができた。
で、食べたばっかりなのに、道の駅「あぐり窪川」に着くと、目の前のかき氷屋台へ。とにかく、この頃になると体が欲しているものを摂るというようになってしまっていた。食べたいか食べたくないか、何が欲しいかを身体に聞くのだ。なんとなくそれが一番体力を維持するように思えたからだ。
しかし、座ってかき氷を食べていると眠い…。さっきの峠でかなり体力を消耗したのだろうか。(というよりもラーメン食べてお腹いっぱいになったからという説もあるが…)
道の駅を出発してからも眠気が無くならない…。さすがに3日目ともなり、疲労が溜まっているのかもしれない。もうすでに時計は13時を過ぎてしまっていた。推奨ルートはここから四万十川に沿って旧中村まで約90㎞も先まで続く。アベレージ20㎞で走っても、5時間はかかる計算だ。山道だけに、登り坂が多ければさらに時間はかかる。
(こりゃ、今日は21時コースだな…。ショートカットしたほうがいいかなァ…)
一応そんな状況も想定して、昨晩予約しておいたのは中村のビジネスホテル素泊まりである。本当は四万十にいくつかあるゲストハウスやライダーハウスなども考えたのだが。
無理せず国道56号をこのまま行けば、海岸沿いに50㎞弱で中村へ到着できる。道の駅「四万十大正」まで行っても、国道439号からショートカット?もできそうだ(こちらは確実に登りがありそうだが…)。さあ、どうする?
四万十絶景快速、発進!
結局、道の駅大正まで進んでみることにした。きっと推奨コースは四万十の清流を見せたかったのだろうから、見てやろうじゃないの!というノリである。というか眠気でまともな判断ができなかったのかもしれない。
ついに四万十川とご対面。橋の下にはまさに清流と呼ぶにふさわしい青々とした水が流れている。ここからしばらくはこの川に沿って進むことになる。
地図を見る限り、この先の道はクネクネと曲がりながら進むのだが、だいたいクネクネしているのは坂のある証拠。勾配を緩やかにするために九十九折りにしている場合なのである。
そう覚悟しながら進むと、どうしたものか、やたらスピードがでる。窪川で飲んだハニーコーラがドーピング効果を生んだのだろうか? 眠気が吹っ飛ぶくらいに軽く脚が回るのだ。サイコンを見ると30㎞/hを楽に超え、40㎞あたりまで出ている。
って…何のことはない、要するに四万十川沿いの道が緩ーく下っているのだ。
「そうか! 川沿いは下りなんだ! これはきっと、中村まで快速ルートかも!」
川の水は高い所から低い所へ流れるのが自然の摂理。そうとわかれば急に元気になってきた。
思った通りずーっと緩やかな下りが続き、ガンガン距離を稼ぐことができる。急に余裕ができて、ふと見かけた沈下橋にも立ち寄ってみることができた。
景色を楽しみながら、あっという間に道の駅「四万十とおわ」まで辿り着いた。ここまで来れば残り45km。あと2時間といったところか。道の駅大正も過ぎたので、あとはひたすら四万十川に沿って進むのみ!
本日最後の道の駅「よって!西土佐」に到着。山奥の道の駅にも関わらず、17時をすでにまわっているのに開いている。
コジャレた道の駅にはこの時間でも車がどんどん入ってくる。明るいうちにここまで来れると思ってなかったので、これは良い誤算だった。本日最後の休憩のつもりでユックリしながら、今日を振り返っていた。今日もいろんな壁が立ちはだかったが、無事乗り越えられたようだ。自転車の旅はずっと色々考える。次々現れる課題を即座に判断し解決しないことには先に進めない。でもそれが楽しいのかもしれない。
休憩を終え、残りの道程も下りだし楽勝だろう、と思ってペタルを漕ぎ出した。
が、もう明確な下り区間はすでに終わっていたようだ。ボーナスタイム終了…、なんなら登ってるんじゃないかとも感じるくらいである。
しかも道は狭く、路面も悪い。お陰で旧中村へ入る頃にはすっかり真っ暗になってしまった。さらに悪いことに、小雨混じりの強烈な台風による向かい風が、市街地へ近づくほど強まってくる。そろそろ明日はヤバいかもしれない。
大浴場で…
結局、20時近くまでかかってホテルココモに到着。このホテル、中村駅の近くで、かつ安くて大浴場があるという条件で選んだ。ところがなんと、ホテルの一階にはしながらロードバイク保管所なるものがあるではないか?
適当に選んだ割には、サイクリストウェルカムな宿を引き当てていた。やるやん、オレ!
で、早速大浴場に入ろうと、脱衣場で着替えていると、
「あの~、もしかして四国一周されてるんですか?」と声をかけてきた男性が。
私:「ええ、そうなんです。なんでわかったんです?」
「いやぁ、そのジャージが…」
あっ、すっかりシコイチジャージのこと忘れてた…。これ見りゃ、知ってる人は知ってるわな…。
「もしかして、あなたも自転車乗られるんですか?」と聞くと、
「はい、私も実はこのゴールデンウィークに四国一周したんですよ!」
えっ~ー!この旅初めてのシコイチサイクリストとの出会いではないか! なぜかよりによって風呂の脱衣場…
と言うことで、しばし明日以降どうすべきか悩んでるというお話をし、色々アドバイスいただいたのだった。その間、男性のお子様はずっと脱衣場で待ちぼうけ。で、我らと言ったら、パンツ一丁で立ち話…まぁそんな出会いもあるのだ。
外は風がますます強くなっている。いよいよヤツの触手が四国へと伸びて来たようだ。今晩はホテル近くの居酒屋で、たった一人の作戦会議だ。
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