自転車ツアーのガイドという職業についての考察(1)

サイクルツアーガイドって

ちょっとお堅いタイトルですが…

私、本気でサイクルツアーガイドと言う職業を目指しております。

かれこれ、そう思い始めて3年くらいでしょうか。このブログもそのために始めたようなもの。得た知識の集積場所なのです。(アラフィフともなると忘れっぽくなると言う裏事情もありますけどね…)

これまではなんとなくガイドになりたいなぁ、と思いながら過ごしてきたのですが、ここに来て本格的にチャレンジに向けて考え始めたのです。

ところが、いざ需要予測とか採算性を考え事業計画なんかを作り始めると、どうやらガイドでは食べていけないらしい…という根本的課題に直面したのです。

で、ここまでの考えを整理するという意味でブログで書いてみたいと思いました。なのでこれからは書くことはあくまでも現時点の私の経験や知識の範囲で考えたものです。

ただ、これからサイクルツアーのガイドを目指そうと考えている人にとっては同じく直面する話だとは思うので、何かの参考になるかと…。

 

ところで、そもそもサイクルツアーガイドってなんなのか?

簡単に言うと自転車を使った旅行を企画し、その案内をする人です。

お客様はサイクリングそのものや、案内されるエリアに興味のある人。

そのようなお客様相手にサイクリングで地域の魅力を紹介したり、自転車ならではのルートや景色へと連れて行きます。

そういった点から地域おこしとの相性が良さそうだとなり、地方を中心にサイクリングツアーを観光に取り入れる地方自治体や観光業界が増えています。

サイクリングのツアーでは、特に目立った観光資源がない地方であっても何もない景色が逆に魅力的になる場面があります。サイクリストならそれはよく知っている感覚ですよね。

我々サイクリストは何もない田舎道や自然だらけの風景を走る気持ち良さを体験しています。

それら何もない場所の価値をそれを知らない人に伝えるには、価値について説明する人(地域の価値を売り込むセールス)が必要です。それがガイドの役割のなのです。

そんな風な意味から、ガイドを別の呼び方で表す呼び名があります。

「景観のインタープリター(翻訳者)」です。なんかカッコ良くないですか?

つまり、見えてる風景の価値をその景色の中にある(地形や自然、歴史)などを使って翻訳し、相手に説明することで、初めてその相手は何もない風景に隠された意味や価値に気がつくと言う仕組み。

 

普通、観光地と言えば「美しい景色」や「珍しい景観(山の形、岩、滝、水の色、植物の群生など)」、「非日常を感じさせる街並み」、「美味しいもの」や「楽しいものが集まる場所」、と言う普段接することのない珍しい体験をさせてくれる場所を指します。(ある意味、観光地とはファンタジーの世界なのかもしれません。)

でもそう言った資源のない(もしくは掘り起こせていない)地域は普通のやり方で観光需要をあてにする事ができないのです。

何もない場所へお客さんを連れて行き、地域の魅力を語り、サイクリングという一種のスポーツアクティビティの要素も借りつつ、新たな価値を生み出して提供する。そうすることで何もない地域に新たな観光経済が生み出される起爆剤となるはずなのです。

一部の地域(北海道やしまなみ海道など)ではこう言ったガイドツアーの成功事例を聞きます。確かに地域によっては、何もない地方の活性化に自転車ツアーが役立ち、新たな価値を生み出しているのは確かです。

 

ガイドツアーに需要はあるのか?

でもちょっと待ってください…。自転車のガイドツアーって、実際皆さんはどこかの地方へ行った時に選んだことはあるでしょうか?

私はない…(ないんかい!)

少なくともサイクリストは有料ガイドを求めません。なぜなら実自分たちでコースを調べ仲間同士でアテンドできるからです。もちろんプロのような解説はないですし、説明を聞かないとわからないような風景は素通りされているかもしれません。

自由に好きな場所を走りたいサイクリストにとって、サイクリングはガイド無しで十分楽しいのです。むしろガイドされても興味のない話はつまらないだけで、ガイドとのコミュニケーションも下手をすると面倒なものになってしまいます。

 

そういったハードルを乗り越えた上でお金を払ってガイドツアーに参加するとして、これが結構な高額だったりします。

例えば自転車のガイドツアーが5時間で10000円とします。

10000円と言えば、好きなアーティストのライブだったり、ディズニーランドやUSJだったり、フレンチのディナーだったりが体験できるお値段。それらと比べてもガイドツアーを選ぶだけの楽しさがあると参加前にイメージできるのか…

おそらくできないのではないでしょうか。

ガイドの人がよっぽど有名人であるとか、面白いのがわかっている場合。つまりファンになっている場合は別です。ファンなら10000円でも出せる人がいるでしょう。

でも、自転車のガイドツアーのガイドなんて、大抵知らないオジサンが出てくるって感じになるでしょう? そこに10000円は投資できないですよね。

で、結果的に稼働しているガイドツアーのほとんどは2000円~5000円といったレベルの価格帯に落ち着いています。サイクリングだけでなく、ガイドウォーキングや体験イベント、エコツアーなんかもその価格帯。その価格なら期待外れだった場合のリスクを取れるということでしょう。

そして、その価格ではガイドは飯を食っていくことはかなり難しくなります。

つまり提供する側が欲しい価格と、提供される側の受け入れられる価格の不一致が最初からあるのです。

その結果、こういったガイドツアー単独で事業として成り立つところは少なく、レンタサイクルの稼働を上げるためのサービスとなるか、自治体からの委託事業としてやってるか、ボランティアでの運用となることが多いのではないでしょうか?

そういった縛りの事業では、毎日開催が難しかったり、ガイドの数や質の確保もままなりません。で、各地域ともガイドツアーの良さは認識し様々な取り組みはしつつも、実態としてなかなか前に大きく進んでいないのが現状ではないかと感じています。

 

そもそもサイクルツアーガイドは誰が求めている?

一方、ニーズのマッチングができていないとの話があるのですが、ここで一つの疑問が湧きます。果たしてニーズってなんぞや?

誰のニーズなのか?

田舎の魅力を案内して欲しいというツアーのニーズが多くあるということなのでしょうか? それなら10000円のツアーでもほっといても人気になるでしょうし、ガイドで飯が食える人もワンサカ出てきているはずです。 そう言うと、いやいやそれはガイドの質を10000円レベルに高められてないからとか、ガイドツアーの価値を訴求できていないからとかいう話が聞こえてきそうです。

記憶に新しいところで今年、新型コロナの影響でマスクがいっとき法外な値段であちこちで売られていました。それでも我々はマスクを探し回ったり、高い値段にも関わらず買い求めています。そのマスクはお値段以上だったかと言うとそうではありません。ただ単に市場が欲しがったタイミングで店頭から消えたからだけなのです。需要が圧倒的に供給よりも増えてしまったから起こった事象でした。果たして価値だけの問題でしょうか?

話を戻します。自転車のガイドツアーがマスクのように絶対欲しいと言う状況なら、EXILEのライブチケットよりもそちらを選ぶ人が増えるでしょう。でも実態として目立ったニーズがあると言ったニュースは聞いたことがありません。実のところ一般的な人はそういった地方の田舎道を走ることは果たして面白いのかどうかもわからない状態で、おいそれとお金は払わないと思われます。

つまり、面白そうかどうかわかりづらいもの(お金を払う価値があるかどうかわからないもの)に飛び込むリスクが参加者側に委ねられているという状況があるため、参加者側のニーズが高まらないのではないのか?という疑問が湧きます。

 

では、この場合、自転車のガイドツアーに対するニーズはどこにあるかと言うと、観光客を呼び込みたい地域、要するに受入側である地方の自治体や観光協会となるのです。

となると、この自転車のガイドツアーに価値を感じていながら、ボランティアやNPO法人への委託事業レベルの予算でなんとかしようとしている自治体や観光協会は、本来はもっとその価値に応じた予算を投入すべきなのかもしれません。

ガイド育成やコースマップ造成等の事業は、あくまでもガイドツアーの価値を認識し、地域おこしを推進したいと言う自治体や観光協会側のニーズから生まれるものであって、参加者側のニーズで生まれている訳ではありません。考えてみりゃそりゃそうでしょって感じですが…。

であれば、ガイドはコースマップなどと同様、地域を売り込みたい側が地域を売り込むために雇うという形が良いような気がしますが、そこもいまいち盛り上がりに欠けます。

これでは地方のガイド事業がなかなか進まないのも仕方ないと思います。

 

50万円のガイドツアーが成り立つ理由?

以前、中山道を自転車で走っていた時に外国人の団体に出会したことがあります。彼らはWALK JAPANという旅行会社の主催するツアーの参加者でした。このツアーは中山道を数日間かけて歩くというものなのですが、一人50万円もするとってもリッチなツアーとなっています。

なぜ彼らはそんなにも高額なツアーに参加するのか?

一つは彼らが富裕層ということもあります。ただそれだけでは高額な参加費は払わないでしょう。ポイントとして50万を旅費に払える層であることは重要ですが…。

大きな理由は、彼らは日本の文化や歴史を深く知り味わいたいが為にその価格を払っているのです。

見ず知らずの国で日本人ですらよく知らないような古い道を歩くとなると、ガイドマップ片手に個人で動くのはかなりリスクが高い。その知らない、わからない、迷う、正しく知識を集められないといったリスク、それに対して50万円を払っているのです。

一方、日本人の場合は国内旅行に対してそれに同じように50万を払うかというと払いません。なぜなら日本人ならホームグランドであるということがとても重要なリスク軽減要素になっているからです。参加料のうち50万円の全てがリスク軽減のためのサービス料ではありませんから、ホテル代や食事など半分くらいは実際の旅行の経費なのではないかと思われます。ならば日本人が自分でホテルなどを手配する旅費ともそんなには変わりません。(やや高級なホテルや食事にはなりそうですが)

ガイドの価値はこの場合、迷わず正しい知識や興味深い体験を安全に得ることができるという部分にあります。そういう意味においては、インバウンドでは10000円のガイドツアーが成り立つ可能性は大いにあると感じます。(ただ、現時点ではコロナでインバウンドについては当面難しそうです。)

にしても、50万円のツアーには参加者に事前に予想できる大きなメリットがあり、逆に国内旅行者向けガイドツアーはメリットが見えにくいということがわかると思います。

ガイドの価値においては、知らない場所や慣れない場所での「安全」がどうやら重要なポイントのようです。

 

サイクルツアーガイドを成り立たせる為に

では、ここで改めてどうすれば提供したい側のニーズと体験したい側のニーズがマッチングするのか?に戻ります。

まず、入り口で参加者側のリスクを減らすための施策が必要だと考えます。この場合の参加者側のリスクとは先に書いた、事前情報のないものに飛び込むというリスクです。

参加者はその地域を知りません。

元々ある程度メジャーな地域…、例えばそれが北海道や京都ならその地域自体の情報が多くあり参加前にある程度のイメージが可能です。そういった地域のイメージを自転車のツアーでさらに新たな面を見せることで価値を作り出すことができます。この場合ガイドツアーに求めるのは、ガイドブックに載っていない皆が知らない観光地の裏側みたいなものとなるはずです。

一方、そういった有名でなく事前情報が少ない地域や観光的に地味な地域の場合は、まずはその地域にポジティブなイメージがなかったりします。楽しくなるであろう、または興味深い体験や知識獲得があるであろうといったものをイメージしづらいのです。なので、そこにリスク(この場合はお金や時間)を犯すことができない。

 

で、まず最初にやるべきなのはそのリスクのうち一つ目の(お金)のハードルを下げることが必要と考えます。つまり無料かもしくは無料に近い金額でガイドツアーを提供するのです。

そうすることで、参加者は参加のためのリスクが減り、弱い興味のレベルでも参加しやすくなります。無料だったらダメでもともとだし、チャレンジしてみるか?的な。

もう一つ、そもそも興味を持ってもらうということが重要です。

参加者は参加費が無料になったとしても、その集合場所まで来て半日なり一日を過ごす時間を費やすだけのエネルギーが必要になります。ここは興味がないと動けない。

当たり前ですが人間は興味の無いものにはアクションしません。バスケットボールに興味のない私がプロバスケの試合が無料だとしてもわざわざ行く事はないでしょう。(まあ、タダ券貰えば行く動機にはなるかもしれませんが…)

おそらくこの興味を引き出すという点が、自転車のガイドツアーを広げるという意味ではかなり不足している部分ではないかと感じています。

要するに自転車ガイドツアーというアクティビティの存在感がまだまだ認知されていないのではないか…。旅の楽しみ方の一つとして定着してないというか、そもそも自転車ガイドツアーの価値が自転車に乗らない層には全く届いていない…、と感じるのです。(ママチャリしか乗らない層は、そもそもサイクリングで10kmとか走ることすら想像できないはず。自分も以前はそうだったので。)

結果、自転車ガイドツアーは他のアクティビティーと比較して何が楽しめるのかが非常にわかりづらいままになっているのではないでしょうか。(下手すりゃ、自転車で10km以上も走るなんてアリエナイってなる。サイクリング自体が否定的に捉えられている可能性もあるし、この辺はベテランサイクリストほど感覚がおかしくなっているので気をつけないといけない。)

 

というわけで、自転車ガイドツアーの価値を説明する活動も必要になるのかな、と感じています。ですからこの場合の活動は実際に来てもらえない人にどうやって興味をもってもらうか?です。

ありがたいことに今はオンラインの仕組みが多くあります。ブログ、SNS、動画などなど…

こういったもので、まずは自転車ガイドツアーが参加すれば楽しそうだぞ、と思う人が増えることが重要です。

そこで私がプッシュしたい自転車ガイドツアーの価値、それは…

  • 車や徒歩では行けないような場所に行け、手軽に未知の発見ができる
  • 健康的だったり、環境にも優しい
  • 地域に貢献できる。地域愛を高められる。
  • 他のツアーとは違う経験が得られる

などなど

そういった部分を丁寧に説明する動画やブログ、SNSによって、それらを入り口に興味をもった人が現れるのではないかと考えます。

さらにそこから無料の体験サイクリングによってまずはサイクリングの楽しさや魅力を知ってもらうのです。できれば最初は乗り慣れたママチャリから。そしてクロスバイクやミニベロ、またはEバイクなどへとステップアップし、乗る楽しさのレベルアップをしていく。

そういったサイクリングの裾野がもっと広がれば、自転車ガイドツアーそのものへの理解が高まるのではないでしょうか?

 

私はそのサイクリングの入り口からファン化していくまでのところをつなぐ役割をしたいと考えています。

 

事業の方向性

自転車ツアーのファン化が一定数出来たとします。

でも、じゃあ私は誰からお金を貰えばいいのか…。ここが大きな問題です。

無料でやり続けていくのであれば、現在私がやっているボランティアの延長でしかありません。

 

さて、どうすべきか。

まずは私が営業をかけるべきは自治体や観光協会、それにサイクリングを広めたい企業等になりそうです。先ほどの話にあった、ニーズのある場所から対価を頂くという流れです。

私は自転車ツアーと通してその地域のPRをするのです。この場合、例えばその地域にどれだけの人を連れて来たかがガイドの成績となります。これは私自身のやりたい事である滋賀の魅力を多くの人に自転車を使って伝えたいという思いにも通じそうです。

次のブログでは、もう少し具体的に中身を考えてみたいと思います。

 

 

※現在、多くのガイド事業やサイクルツーリズム事業を立ち上げている方が全国におられます。実際に企業として成り立たせておられる諸先輩方がいるということは認識しつつも、この事業はかなりハードルが高い(参入障壁が高いという意味でなく、採算性のある事業化にするのが難しい)ことは確かなようです。

そういったことも踏まえた上でこのガイドという職業に対しリスペクトの気持ちは持ちつつ、敢えて現在思うところを書いてみました。ご批判やご意見、アドバイスなどもしいただけるのであれば喜んでお受けいたします。