旅行業未経験で旅行会社を起業した駆け出しサイクリングガイドが2年を経て感じたこと

こんにちは、フナズシマルです。

私は自転車で地元を巡り、それをブログなどを通して発信することにハマってしまい、何を勘違いしたか旅行業経験が全くないのに旅行会社を作ってしまった駆け出しサイクリングガイドです。(さすがにスタートして2年経ったので駆け出しとは呼ばない!?)

お陰様で何とか皆様に支えていただき2年間は生き延びてこられました。まだまだ微々たるものではありますが、この間いただいた貴重な経験を通して見えてきたことがあります。今回のブログでは、そんな旅行業未経験で起業してしまったサイクリングツアーガイドが感じた様々な気づきを共有できればと思います。

このような時代ですから生き方も色々。起業して好きなように生きていきたいとお考えの方も増えてくると感じております。是非そんな方の何かのヒントになればと思います。

サイクリングガイドって実際どうなの?

一応日本サイクリングガイド協会の厳しい講習を受けてデビューした私ではありましたが、有償ツアーの経験はほぼない状況でのスタート。しかし大変ありがたいことに、この2年間でお金をいただいて行ったツアーの回数は50回を超え、300人以上のお客様に出会うことができました。

はっきり言います。サイクリングツアーのニーズはあります。ただツアーを作ったり運営するガイドが足りません。要するに売り手市場です(のはず…)。

そんなに儲けられそうな業界なら、もっと飛び込んでくる人や事業者があってもよさそうなのに…。ですよね?そう思いますよね?

まあそんな簡単なビジネスではないということです。

一番の問題はサイクリングツアーという商品の認知の部分と、価格イメージの課題です。そしてガイドという職種の価値の低さ。

特にこのガイドの価値の低さはこれからの課題であり、希望でもあります。

サイクリングツアーは儲からない!?

正直言って儲けるのはかなり難しいです。というか簡単にはいかないけど、条件が合えば食っていけるのかな、という感じです。

やり始めて感じたのは、自身でツアーの募集をしてもそう簡単にはお客様が集まらないということでしょう。

現在は各種OTAサイトやSNSなどで、個人でも世の中へ広める方法はあるにはありますが、そんな簡単には反応しないのです(やり方次第だとは思いますが…)。サイクリングツアーに限らず、不特定多数に募集をかけて集めるツアーは旅行会社でも規模の小さなところは積極的にやっていなかったりします。募集には手間暇と費用がかかりますから、そこにどれだけ経営資源を避けるかです。

ちなみに私は県内のアクティビティ事業者や他の様々な経営者の方とお話しして客観的に自身の事業について考える機会を大切にしています。サイクルツーリズム界はとかく身内(自転車愛好家や自転車業界)でかたまりすぎている感じがすごくしていて、自転車愛が強すぎるが故にやや視点が偏っている感じがするのです。なので、他業種の客観的な意見やビジネスモデルを通してみた方がサイクリングツアーのビジネスモデルとして課題も見えてくると考えています。

そうやって感じた中での主なサイクリングガイドが儲けにくい理由として以下があります。

  • 自転車周辺のコストが高い
  • 大人数では安全管理が難しい
  • 公道を使って行うので、地域や他の交通への配慮が必要
  • 自転車という乗り物に対する安いイメージがある
  • ガイド=ボランティアガイドのイメージ
  • 補助金事業がありすぎ

とまあ、だいたいこんなところがサイクリングツアーを儲けにくくしている要因だと考えています。

他のツアーやアクティビティと比較するとその課題がより鮮明になります。

自転車周辺のコストが高い

自転車ツアーは当たり前ですが自転車が必要です。自分の自転車を持参してもらうか、レンタサイクルで借りてもらうか、ツアーで貸すか。いずれにせよツアー全体の経費に大きく影響するところですから悩みどころです。

サイクリングで使えそうなEバイク(電動アシスト車)は安くても15万円以上はするし、また自転車には保管場所やメンテナンス費用もかかってきます。ウォーキングツアーなら機材費用はO円です。

さあ、これをどう考える?

ウォーキングとサイクリングでは移動範囲も体験も違いますが、機材やメンテナンスコスト分の価格差における価値をどのように購買前のお客様に提示するか? そこの見せ方が非常に難しいです。

ちなみに私はミニベロタイプのEバイクを県の補助金を利用して10台購入しました。

なぜこのタイプにしたのかというと、初心者や女性をターゲットとして乗りやすさや身長への対応性を考えました。スポーツバイクにはサイズがありますが、この自転車は1サイズでほとんどの方に対応可能です。サイズをいくつか揃えると稼働しにくいサイズが出てきてしまいますから。あと、車で運びやすいという利点があります。私の場合、様々な場所に自転車をもっていってツアーを実施したいという思いがあったので。

自転車を所有することで固定費化することができ、ツアーの価格にも柔軟性が出せます。またレンタサイクル事業者の都合に合わせることなく自由に使えるのは重要です。おかげさまで自転車を持っていることで声をかけていただける機会もたくさんありました。ツアーのターゲットを明確にするためにもツアー用自転車は自身で用意できたほうが良いと思います。

大人数では安全管理が難しい

これは実施するエリアによって違いますが、特に滋賀県の場合は車社会なので、あまり長い隊列を組んで走ることが難しいです。だいたい5〜7名につきガイド1名以上は付けたい。安全管理を考えるとテールガイドも毎回つけて2名1パック体制でやりたいところ。となると、2名分のガイド費用を5〜7名の参加費で賄う必要があります。ガイド代をしっかりと取ればいいのですが、そうなると参加費がプレミアムな価格になります。安くすると結局ガイドの取り分は下手すりゃアルバイト以下になってしまいます。

ガイド1人あたりの参加者数ということでこのビジネスモデルを他と比較すると、ウォーキングツアーなら1人で数十人引き連れていくことが可能です。山歩き系でも20〜30名で催行しているところは多いと思います。

しまなみ海道あたりは20〜30名、それ以上の受け入れをされていますが、しまなみでガイドをされている方がビワイチに来られた際に、ここではしまなみのようにはいかないと仰られていたそうです。

ガイドツアーを企画される場合は、何処で、何人規模で催行するかも事業としては重要なポイントですね。

公道を使って行うので、地域や他の交通への配慮が必要

例えばマリンレジャーや山遊びなどは、基本的に生活場所として使っている人の割合がかなり低いエリアです。そのためアクティビティに参加している人と、生活者の交錯する場面は少ないと思われます。

サイクリングツアーは公道で、生活エリアで行われます。道路は運送業務の方や普段の生活で地域の方が使われていますし、訪れるスポットも地域の生活に近い場所となります。

特にサイクリングツアーの特徴として、有名観光スポットではない場所を訪れることが魅力の一つとなっていたりしますが、裏を返せば地元の人の生活圏に土足で入っていく危険性があるのです。観光地というのは言わば生活圏との切り離しができている場所なのです。そういった区別を乗り越え、大人数でズカズカと地域へ押し寄せることを良しと思わない住民も多いでしょう。特に静かな山村などはなおさらです。自分の家の前に自転車の集団が勝手に来て、あちこちに自転車を停めたらどう思うでしょうか? 

そういうことも配慮すると、大人数で行けるところとそうでないところがあります。サイクリングツアーはどちらかというと少人数に向いているツアー商品なのです。おそらく少人数のほうがよりサイクリングツアーの魅力が伝わりやすいとも感じます。

その点、SUPなどのマリンレジャーや山登りなどは限定されたエリアであり、他の生活者や交通を比較的気にすることなく多くの参加者をアテンドできるため、1人あたりの参加費を安くできると思うのです。(もちろん私なんかの知らない苦労はたくさんあると思いますが)

自転車はその意味で他のアクティビティに比べてオペレーションコストが高くなりがちなんじゃないかと感じています。

自転車という乗り物に対する安いイメージがある

山にしても海や川にしても、そこで行われるアクティビティーには普通の人はもっていない専用の機材が使われます。だからこそプロガイドが案内するツアーに参加するのです。

一方、サイクリングは普段買い物で使っている自分の自転車も可能です。ましてや場所は生活エリア。レンタサイクル専門の事業者では最新のスポーツバイクが割といいお値段で貸し出されているものの、ちまたには自治体や観光協会がやっている数百円で貸し出されるレンタサイクルがあり、むしろ一般的にはこちらのほうが接点があります。

現在びわ湖周辺のレンタサイクルはクロスバイクで1日2000円〜5000円といったところではないでしょうか? Eバイクになると7000円〜13000円程度とぐっとお値段が上がります。

スポーツバイクの知識が多少でもある人なら、その価値は知っているし、レンタルの値段についてもある程度理解はされていると思いますが、そうでない人にとってはサイクリストの価値観は理解できない世界なのです。

よく言われたのがレンタカーとの比較。レンタカーは軽自動車で1日5000円程度〜。普通車でも8000円〜10000円くらいか。なんで自転車がそんなに高いのか?ってよく怒られました。

やはり普通の人からすると自転車のレンタルなんて〜1000円くらいまでのイメージなんだと思います。

ガイド=ボランティアガイドのイメージ

これも本当によくサイクリングガイド界隈で言われていることです。

日本では全国各地にシニアの方によるボランティアガイドが定着しています。ツアーの参加費が無料〜1000円程度で、結構詳しく楽しいツアーを実施されています。

私もたまにそういったツアーに参加しますが、よく言われるお客様のペースを考えず喋り続けるガイドさんも往々にしておられますが、中にはとても周囲への気配りも上手なガイドさんもおられてとても勉強になるのです。

こういったガイドさんを旅行会社も利用してきたようです。ツアーの中にこういったガイドコンテンツを入れると付加価値が増しますし、その割にコストがかからないので使いやすいのだと思います。その意味では旅行業会とボランティアガイドの協会も強く結びついていると言えます。

私の知っている限り、さすがにウォーキングツアーのようなガイドコンテンツメインの場合は、有償ツアーではボランティアガイドではないプロガイドさんがついていました。それでもガイド1日あたりの基本報酬は2万円程度だったかと思います。

サイクリングガイドにはサイクリングツアーならではのガイド技術が必要であり、観光ガイドだけではない独自の安全管理や、スムーズな行程管理のテクニックが必要となります。おそらくこの点は実際にサイクリングツアーを企画したことのある人なら、その必要性は理解できると思いますが、参加者であるお客様にその価値が伝わるためには、もう少し世の中にサイクリングツアーの需要と供給が増えていく流れが必要と感じます。

しまなみ海道などの先進地での盛り上がりや、インバウンドなど黒船的な価値観や需要の押し寄せが日本の場合は変化のきっかけになるのかもしれません。

ただ最近しまなみに勢いがないと聞くのでちょっと心配…。

補助金事業がありすぎ

サイクリングツアーに限ったことではないのですが、意外にこの件ってあとあと影響ありそうで…。

コロナ禍で日本の観光産業はボロボロになりました。観光立国を推し進めてきた国もなんとか立て直そうと助成金や補助金をバンバンと出しました。

滋賀県でも全国旅行支援や安心安全なバスツアー助成金、滋賀割など様々な観光へのサポートが行われてきました。

実はサイクルツーリズムに関しては自転車活用推進法が施行され、各地のインフラ整備はもとより、各地自体へのサイクルツーリズムへの補助金が国土交通省や観光庁によって実施されてきました。

ナショナルサイクルルートに選定されたエリアにはさらに手厚い国からのサポートがあります。そういったお金を使って、全国各地の自治体を中心にサイクルツーリズムを観光の柱にするため様々な事業が展開されました。

一時期各地でサイクリングイベントが行われたり、モニターツアーが盛んに行われました。これでもかと食事がふんだんに提供されたり、バスや鉄道または船をチャーターしたりと、とても実際には採算性なんて取れないような事業が花盛りでした。

私もそういったイベントなどに関わった人の中の一人ではありますが、結果的にそれらの補助事業は単なるお祭りで終わり、先々の受け入れ体制の構築や、現実的な計画性をもったツアー造成にはつながっていないように感じます。ほんと、泡銭をパアーッと豪遊して使ったような感じ。

これらのイベントやツアーに参加した人は、補助金あっての価格(参加費1000円とか高くても5000円程度)だからこそ参加したイベント好きな人なのであって、この方々はアンケートではそれっぽいこと書いていても参加費が高くなったら絶対に参加しません。

むしろこれらのイベントによって、サイクリングツアーの価格が安く定着してしまっていたら、ますますこの先儲けるのは難しい状況になります。

本来はこの補助事業を活用して観光人材・ガイド人材育成、地域資源の掘り起こしと商品化といった地域の受け入れ体制構築にお金を使うべきんなんだと思うのですが…。

果たして補助金で飯を食う体制を3年もやってきて、この先観光業界は通常の市場に放り出されたときに自立できるのか…。ちょっと恐ろしいなと。

とまあ、ネガティブな材料を並べててしまいました。これではガイドの成り手はいなくなってしまいますね。でも最初に書いたようにサイクリングツアーへのニーズはあるし、ガイド業への今後の期待も大きいのです。

旅行業を変えるサイクリングツアーの可能性

また大層なことを見出しにしてしまいました。

でも今、私が考えているのはそういうことです。

現在主にお仕事の依頼を受けているのが、アウトドア系ツアーを中心にちょっと変わった国内旅行を手掛けている大手旅行会社です。

いわゆるバスで大きな団体を有名観光地へ連れていく従来型タイプのツアーではなく、美しい自然やマニアックな文化遺産などを歩いて巡るツアーを結構高めの値段設定で販売されています。客層はアクティブシニアと言われる方が中心。こんなツアービジネスを30年も前からされているのです。会員数はなんと700万人…。

もともと通常のツアーよりも多品種で少人数のツアーが多い会社ではありますが、当社は10台しか自転車がないので必然的に定員10名になるのですが、そんなツアーを成り立たせてくれています。もちろん価格については交渉にはなりますが、実際販売されている価格を見ると結構勇気が湧いてくるものになっています。

そんな中でツアーをしていると、定員10名を喜ぶお客様の多いこと。アフターコロナのトレンドとして大人数を避ける傾向は強まっていると感じます。コロナ禍によって少人数の良さを知ったとか、混み合うことを嫌がる風潮が根付いたか。

前述したように旅行業とは大人数を前提にした薄利多売の手数料ビジネスです。手数料率(≒利益率)は旅行業法の下、事前に掲示することになっており概ね10〜20%が多いと思われます。募集型企画旅行をメインとしている場合、少人数では売上を増やすためにはツアー本数ばかりが嵩み手間暇だらけになってしまいます。そのため少人数ツアーは美味しくないのです。

一方、地方によくある中小の旅行会社は第3種旅行業のところが多いようです。第3種は募集方企画旅行(自ら企画してチラシやパンフで不特定多数へ募集するタイプ)については催行地域が限定されますが、受注型企画旅行(特定の顧客から依頼を受けて企画するタイプ)は地域に限定されずに催行することが可能な会社となります。したがってこれらの会社の主な営業先は地域の団体(会社、組合、学校、自治会など)となります。

ただこれらの会社がメインとしている市場はご存知の通り縮小の一途です。バスツアー補助金などで一時的に案件は増えているように感じますが、コロナ禍で飲み会も減ったように皆んなでどこかにいくというスタイルはもはや消えつつある状況です。

旅行自体への欲求は人間の根源的欲求の一つと言われますから、コロナから解放されたいま世界的に観光需要が伸びているのは当然なのかもしれませんが、その購買方法はネットによってすでに大きく変化しており、ちまたから旅行会社の窓口がどんどん減っているのはお気づきかと思います。

ネットによって組織から個人へと様々な繋がりが変化していく中、旅行業界においても同様に各地域や施設と個人が直接結びつくことが可能となっており、間に入る旅行業の存在価値はその分どんどんと下がってきています。その仕事はOTAという大手資本によるシステムへ吸収されてしまっています。

この先、従来の旅行業の役割は都市圏も地方もこのシステムが担うことになるでしょう。中小の力ではさすがにここの開発は厳しい。

となれば、これから大事なのはコンテンツをいかに作るかです。もしくは大手や海外のOTAの仕組みでは入り込めないような地域ならではのネットワークだと思います。

先ほど書いた中で、有名観光地は団体客向けに用意された空間だと言いました。一方サイクリングツアーでは観光地ではない地域の生活圏の中にあるスポットを訪れます。こういったスポットは大々的に宣伝はしません。そういったところにそっと光をあて、地域の生活に配慮しつつ、外部から訪れる人と地域の間に入って観光をコーディネイトする。それがこの先のサイクリングツアーをはじめとした新しい観光の形になっていくと考えます。

これこそ観光公害や自然破壊をも防ぎ、地域の活性化にもつながるまさにサスティナブルな観光。そのためには地域の信頼を得たガイドの存在が非常に大きくなる。そう思います。

このガイドを旅行会社が兼ねることは、手数料に頼っていたビジネスから脱却し、自らコンテンツを作り上げることで付加価値を高め(コンテンツの内製化)、そして地域との繋がりをより深めていくことになるのです。その繋がりこそさらなる地域の旅行業の存在価値になります。

むしろ大手旅行業よりも地域の旅行業にこそ大きなチャンスではないでしょうか?

この機会に地域の旅行業は、地域のコンテンツを作る人材を発掘し育て、自らコンテンツを作り出す体制を作り上げるべきだと考えます。

以上、この2年間で私が旅行業とサイクルツーリズムに身を置いて感じたことでした。では。

(追伸:たかだか2年ぽっちの経験で偉そうに講釈垂れてしまいました…。観光に関わるすべてのひとと地域が幸せになればいいなと願っております。)

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