旅籠の朝
芦田宿 金丸土屋旅館で旅籠の朝を迎えた。
朝食もご主人お手製のオーソドックスなメニューだが、なぜか旅行中の朝食ってモリモリ食べられる。朝からお皿にはイナゴがいるが、もうビックリすることは無い。むしろ大歓迎の口。
一番感動したのが、甘酒ヨーグルト。
プレーンヨーグルトに甘酒を煮詰めて作ったソースをかけた物。これが素朴ながら新鮮な味わいで大変美味しかった。確かにどちらも発酵食品なので合わないはずはない。
出発までの少しの時間、ご主人から宿について色々な話が聞けた。宿の経営に対する思いや中山道のこと。決して儲かるような商売ではないし、一人で全てを切り盛りされていて大変なことが多いと思うが、この場所に中山道の旅籠を残し続ける使命を持っておられる事がヒシと伝わった。
ちなみにこちらは外に薪ボイラーを設置されていて、囲炉裏の周りは床暖房にしているそうだ。囲炉裏を囲みながらの一杯も最高だろう…
Y工場長、ご主人の話に真剣に聞き入っていた。まるで対談番組の一場面のよう…
笠取峠
さて、この日は峠マックスの日だ。笠取峠に和田峠、諏訪湖を挟んで塩尻峠と、大きな峠ばかりを越えていかなければならない。そのため距離は短めに設定してある。
気になるのは天気だ。
昨日までは快晴が続いていたが、ここにきて天気が崩れるとの予報。しかも嵐のような悪天候も所によっては発生すると天気予報が伝えていた。これから山がちのルートとなるだけに心配である。今日はいよいよカッパの出番かもしれない。
身体のほうはイナゴパワーでスタミナ充分、足の疲れも回復している?はず。
芦田宿自体が坂の途中なのでいきなり登りからの始まり。一度国道へ出て最寄りのコンビニでドリンクやオヤツなどを補充。
笠取峠はもう目の前に見えている。気分は朝練だ。
調子を確かめるようにゆっくり登る。
笠取峠自体は大した坂ではない。勾配もそんなにきつくはないし、距離も知れている。
しかしこのジリジリ登る感じの坂は気持ち的にシンドイのである。笠取峠そのものは松並木や石畳の遊歩道もあり、街道情緒豊かなところ。ゆっくり景色を楽しみながら登ってもいい坂だ。
ただ、曇り空のせいもあってか気分はそんなに乗らない…もう今にも降り出しそうである。
笠取峠を越えると下り坂に入り、「長久保宿」の集落がすぐに現れる。朝の時間帯は交通量も少ないので、ダウンヒルはなかなか爽快だ。
なのに雨がパラパラと降ってきやがった。ついにカッパ登場!
長久保宿でカッパを着込み、リュックにカバーをかける。完全装備だ!・・が、暑い。
高地の山で濡れるのは絶対あかんとわかっててもかなり不快である。助かったのはしばらく下り道だったため、走っている間は耐えられた。
快調に下っていくと、「和田宿」に入った。いよいよ中山道一の難所と言われる和田峠の一番手前の宿場である。
ここ和田宿もかなり旧宿場町の雰囲気を色濃く残しており見ごたえ十分の場所だ。
2階が大きく張り出した出梁造りの様は実際に見ると異様なほど目につき、ここが宿場であるということを明確に主張している。金丸土屋旅館の御主人曰く、これは街道でいかに目立つかという先人の商売人の知恵だそうだ。少しでも街道を通る旅人に、隣よりも大きく見せるという効果を狙っているらしい。
ここにも大変立派な旅籠があった。「大黒屋」である。現在は宿泊はできないが1階が有料で公開されている。
中山道一の難所「和田峠」
和田宿の先で国道に合流。すでにジリジリと登っているが、国道も斜度こそはキツクはないものの、旧道との分岐までは5㎞もまっすぐひたすら登る。これが思った以上にキツイ。しかも交通量も多く気を抜けない。全く楽しくない道だ。
途中で休み休みしながら登ると、新しいバイパスと旧国道との分岐点に到達。石畳などがある旧道も旧国道方面から登る。
旧国道のつづら折りが始まる1つめのカーブのところに和田峠の碑があった。旅の趣旨から言えばこちらの道を通るのが筋ではある。しかし道が途中かなり悪くなっているという情報や、雨が降ったりやんだりしており、天候が大きく崩れる危険性も考えて旧国道のほうを選択した。それでも次の「下諏訪宿」まで峠だけで15㎞以上もあるのだ。ここは無理はしない。ブログ的には多少の無理をして面白エピソードをゲットとかもありなのだが、これでも私は50前のいい大人なのである。
が、この和田峠、さすが中山道一の難所と言われている?だけあって超シンドイ。写真にあるようにアスファルトのクラックも多く、舗装路のくせに非常に走りにくい。ただ交通量は圧倒的に少なく、車を気にせず走れるのはありがたい。
ここからしばらくは一本道なので、お互いマイペースで進む。Y工場長もかなりキツそうだ。
しばらく登ると茅葺の建物が現れた。ここはかつて接待茶屋として使われた建物の復元で、「永代人馬施行所」という。道路を挟んで向かいには湧き水がコンコンとわいていた。水を頂こうかと思いながらも、後回しにして建物の撮影などをしていると、軽ワゴンの女性が二人やってきて、大量のペットボトルに水を汲み始めた。当分終わりそうにないので、お願いして途中に割り込ませてもらった。おそらくどこかで飲食店でもされているのだろうか。
ここにも茶屋の跡が。「東餅屋跡」である。このあたりには江戸時代に5軒もの茶屋があり、名物の力餅を売っていたそうだ。それだけ長く厳しい峠道だったということだろう。
旧道は国道を所々で横切っている。近年に復元されたのであろう石畳になっており、ハイキングルートとしては風情を感じられるようになっている。次回ここへ来るとしたらゆっくりと和田峠を越えて下諏訪の温泉で宿泊なんてのもいいよなあ。
旧国道の登りはこのトンネルで終了。中山道最高地点であるこのあたりは標高1200mもある。ここから一気に諏訪湖へ向かって下っていく。
下ったらまた登るのだが・・・。
下諏訪宿
長ーい下り坂を車や転倒に気を付けながら下る。下り道は体力的には楽なのだが、事故が一番起こりやすい。ずっとブレーキもかけっぱなしなので手も痛くなる。
少し視界が開けた場所まで降りて来た時、遠くに冠雪した白い山が見えた。駒ヶ岳だろうか。諏訪湖を越えるといよいよ「木曽路」に入ることになる。
下諏訪の温泉街の向こう側に諏訪湖が見える。中山道は下諏訪で直角に曲がり、塩尻へ方向を変えるため、これ以上諏訪湖に近づくことは残念ながらなかった。
下諏訪の細道を進むと、「伏見屋邸」という元治元年に建てられた商屋があった。今はお休み処として提供されているようだ。
小さな格子戸をくぐると、五月の節句と言うことで、五月人形が飾られていた。今日は5月2日、そうか、もうすぐ子供の日なのだ…と、非日常な毎日にすっかり曜日感覚が無くなっている。
中ではボランティアの大お兄様や大お姉さまがお茶とお菓子を出してくださり、伏見屋についての解説を始められた。
実はこの時、もう昼時。和田峠を越えてきたこともあり、恐ろしく腹が減っていたのだ。頂いた一つまみのお菓子が却って空腹感を高めた。昼飯が食いたい。
大お兄様の解説がとてつもなく長く感じてしまったので、そろそろ行きますと途中で退散。帰り際に「下諏訪あたりで名物料理ってなんですか?」と尋ねると、「そりゃ、蕎麦だよ!」と一言。ある程度予想していた答えに「はぁ、なるほど…ありがとうございます。」と言いつつ、蕎麦って気分じゃないんだよなあ、と思う。
下諏訪宿は中山道で唯一の温泉街でもある。中山道沿いには数軒の温泉宿や日帰り温泉もあった。ゆっくり入ってみたいが、入ったら最後、動けなくなるだろう。
諏訪湖と言えば諏訪大社が有名だろう。諏訪大社は実は全部で4社あるのだそう。上社本宮、上社前宮、下社春宮、下社秋宮である。そのうち2社が中山道沿いに存在する。まったく予備知識がなかったので、続けて現れた諏訪大社に一瞬同じところをグルグルまわってしまったのかと錯覚してしまった。
諏訪大社下社秋宮のすぐ近くに下諏訪宿本陣があった。
下諏訪の地は甲州道中と中山道が交わる地でもある。甲州道中とは日本橋から山梨県を通過し、ここ下諏訪を終点とする中山道と並ぶ五街道の一つ。距離は200㎞強とのことなので、1日で走破も可能か。いいこと思いついた!次はお気楽に甲州道中・下諏訪温泉ツアーなんてのがいいなあ。
諏訪大社周辺なら食べる所がいっぱいあるだろうと思っていたが、案の定そば屋だらけ。だからそばが名物だって聞いてたでしょ!と、自分に突っ込みを入れながら、塩尻峠方面へ進みながら探すと岡谷市に入ったあたりに一軒のラーメン屋が!
▲「岡谷らー麺 mossaおぱち」のおぱちそば(並)
いわゆる次郎系ラーメンで、煮干しとニンニクが効いたコッテリスープと太麺のガッツリラーメン。
いちおうソバだ。そのソバじゃないって?
だってお腹が空いてるのでこのくらいガツンとくるのが欲しかったのだから仕方ない。
またまた難所の「塩尻峠」
お腹がいっぱいになったところで再び出発ですが、すでに疲れと満腹感で眠い・・・。重くなった体を引きずるように自転車に跨る。
さて本日2度目の「難所」へ向かう。
旧中山道は国道20号と並走するように進み、長野自動車道の岡谷インターへ。
インター手前からは登りが始まっているが、そこに「御小休本陣今井家」の建物があった。こういった施設があるということは塩尻峠の❝難所レベル❞が窺い知れる。
道は岡谷インターを回り込むように越えて、徐々に山のほうへ吸い込まれていく。見返すと諏訪湖が遠くに見えた。徐々にまた獲得標高はあがっている。
しばらくいくと本格的な坂が始まった。「塩尻峠」だ。
最初は斜度もさほどでもなかったので、ダンシングでぐいぐい登っていったが200mほど行って完全に萎えた。斜度15%くらいのドギツイ坂が真っ直ぐ頂上まで続いているのだ。
ここまで舗装路の坂では足を着くことはなかったのに、見た瞬間無理って思った。
そこからは自転車を押して歩くが、すでにそれすらキツイ・・・。頂上あたりは20%ほどあったのではないだろうか。塩尻峠がこんなに激坂とはなめていた。
やっとのことで頂上にたどり着くと、展望台のある公園となっていた。
押して歩いただけなのに息も切れ切れである。ただここからの眺めは素晴らしかった!
塩尻峠の通るところを中心にV字に広がる谷間の向こうに諏訪湖が広がっていた。
写真ではわかりづらいが、その向こうには白く雪をたたえた山並みが見える。八ヶ岳なのだろうか。まさしく絶景だ。
しかしこれだけの高度をまっすぐ駆け上る塩尻峠はハンパない峠であった。
峠を越えればいよいよ「木曽路」は目の前だ!
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