活路を見いだせ!
正直、ここまでかと諦めかけていた。
外はすでにゴォーゴォーと風が鳴り響き、雨は時折激しく真横に吹き流れている。ホテルの窓から見える木々が大きく揺さぶられているのがわかる。
このまま今日をホテルで過ごすことは可能だが、台風の上陸が明日以降ということを考えると、明日も動けないばかりか、運転見合せ等により交通手段も失う可能性が高い。
昨晩、じっとGoogleマップを見つめ、輪行をはじめ様々な方法を考えた。なんとか先に進みたい。そして、1000kmは難しくとも、一周という形でこの旅を終えたい。サラリーマンの夏休みは貴重なのだ。
台風の中であっても比較的安全なルートで、少しでも先に進めるルートは…
ふと、昨日走った江川崎から旧中村までの道を戻ると、江川崎から宇和島へ抜ける国道があることに気づいた。この状況だから海沿いは絶対に近づいてはいけないだろうが、山道なら台風の影響はまだ少ないのではないか…。あとは川の増水具合と、山道自体の険しさがどうなのか。
ホテルの大浴場の朝風呂に行くと、昨晩出会ったシコイチ完走者の男性がいた。またしても脱衣場で相談…(まったく変なご縁だ)。江川崎から宇和島へ向かおうと思うが、道はどうだろうと聞いてみたところ、
「あぁ、その方法がありますね!確かその道ならほぼフラットなはずですよ。」
サイクリストが嘘つきなのは常道とは知りつつ、ここは信じたい。
そうとなれば、あとは雨風だけ。四万十川の川幅であれば、まだ大して増水はしてないだろうと予測。
宇和島までは70km弱の距離、ままチャリ並のスピードである台風が上陸する前に走りきれるはず!
「よし、行こう!」
さぁ、Funazushi-maru 対 台風イチマル号との駆けっこスタートだ。
ママチャリ台風との勝負
簡易なレインジャケットに身を包みホテルを出発すると、早速建物が切れた場所では強い横風が雨粒とともに吹き付ける。飛ばされないように、姿勢を風上に倒しながらバランスを取って進む。
すぐに市街地を抜け、国道441号が後川沿いに進む辺りでは、建物もなくなりすっかり田舎道の様相。雨足は強くなり前が見辛い。自分で決めたこことは言え苦行である。
が、読み通りこの頃には風は徐々に弱くなっていた。台風の風は昨晩と同じく海側から内陸に吹く風であり、山側に逃げるルートである今回は追い風になる。そして周りの木々なども防風林のような形となって風を弱めているのだ。(オレ、天才!)
しかも昨日は下りの割りにスピードが乗らないなと感じていた四万十川沿いの道は、やはり江川崎から旧中村方向へは若干登り基調だったようだ。逆方向へ進む今回はアップダウンは含みつつも下り基調となっていた。
お陰様で、雨の中であるがスピードに乗ってぐんぐん進むことができる。どうも台風イチマル号とは相性が良いようだ。
四万十川を見てみたが、昨日と水量は変わりない。沈下橋が沈下する様子はなさそうだ。とりあえず一安心。あと気になるのは江川崎から先の国道381が本当にフラットなのかということ…。
順調に、というか思っていたよりも早く「道の駅・よって!西土佐」へ到着。嬉しいことに雨も小降りになってきた。一安心したところで朝御飯タイム。ホテルを出てすぐにローソンで買ったおにぎりを、四万十川を見ながら食べる余裕も出てきた。ここまですでに35km程度あるので、もうあと半分ばかりである。
この先、左手の国道381号へ恐る恐る進む。国道381号はJR予土線と広見川に沿って走っている。広見川もそこそこ川幅があり、四万十川と似た風景が続いていた。まずはフラットな道で良かった。
時折パラパラと雨が強くなるものの、さほどキツくはない。
ほどなく、愛媛県との県境へ。
愛媛県に入ると、路側帯付近に青いラインが引かれている。シコイチルートなどのサイクリングルートを示すもので、道の駅や観光スポット等、次のポイントまでの距離や方向が表示されておりなかなか見易い。ここまでの県にも同じ形で表示はあるのだが、主だったところだけに留まっているようだ。ところが愛媛県は県内あちこちにこのブルーラインが張り巡らされているといった感じなのである。さすが自転車行政においては四国4県を引っ張っている愛媛県だ。
江川崎から12km程度走ったか、松野というところにある道の駅っぽい施設に到着。「虹の森公園」と言って、なぜか水族館やガラス工房があったりする。ここにも直売所があるのだが、梨が大変美味しそう。なぜか無性にフルーツが食べたいのだが、残念ながら1個では売ってなかった。さすがに2個パックとかは要らない。
雨で体が濡れると室内のクーラーは逆に寒すぎる。昨日までアツイアツイって言ってたのが嘘のようである。暖かいコーヒーを一杯飲んで後にした。でも梨食べたかったなあ…
鬼北町で国道320号を西へ。あと14㎞程度で宇和島だ。ここから若干登りに入るが、わずかの辛抱だ。あのシコイチサイクリストは嘘つきではなかった! ありがとう、大浴場!
宇和島突入!
思った以上にあっさりと宇和島に入った。台風との勝負、私の勝利はほぼ確定だ。
ここから一気に下り、宇和島市街へと入るが、途中ダムが右手に見えた。「須賀川ダム」である。市街地まであと3㎞という地点である。
(市街地からこんなに近いところにダムがあるのか…)
今から超大型の台風が真上を通過しようとしている宇和島は、市街地のすぐそばにダムが存在する街だったのだ。もう嫌な予感しかしない…。しかも今から向かう「宇和島オリエンタルホテル」は、その須賀川からほど近い場所に建つホテルなのである。
もうここまで来ればそんなことを気にしていても仕方ない。まずは腹ごしらえ!
国道320号をドンツキまで進んだ先にあるのが「道の駅 みなとオアシスきさいや広場」だ。
きさいや広場は宇和島港に面した道の駅で、新鮮な魚介類を豊富に使った宇和島の郷土料理が食べられる場所だ。この頃にはまた雨がきつくなっていたが、風はそれほど吹いていなかった。
今回のブログ、写真が少ないとお気づきだろうか? さすがに雨の中のサイクリングだったので、ジップロックにデジカメとモバイルバッテリーを入れて、自転車のフロントバッグに入れっぱなしにしていたのだ。したがってあまり写真は撮らずにここまで走って来た。
お昼の狙いは宇和島の郷土料理「鯛めし」! ここぞとばかりデジカメの入ったジップロックを取り出すと…。
「グヘっ! ふ、袋に、み、水が…!」 水が溜まっていました…
水に溺れかけた子供を救うかのような必死の状態で、まずはソニーRX100M3を取り出しタオルで即座にくるむ…。恐る恐る電源を押したところ、無事起動。
「びびったじゃねえかよ…」
続いてモバイルバッテリーをサルベージ。電源ボタンを押したところ‥‥ LEDが見たことも無いような気が狂った感じの点滅を繰り返し、その後ウントモスントモ言わなくなってしまった。ガーンである。私のスマホ、異常なほど電池も持ちが悪いので半日でなくなってしまう。なのでモバイルバッテリーがないのは非常に不安なのだ。
最も困るのは、ここまでスマホのSTRAVAアプリでシコイチの記録をしているだけに、途中で切れてしまうことは命に代えても避けたいところだったりする。
ああ、ちゃんとジップロックの蓋しめとけよ、オレ…
失意の中ではあるが、まずは鯛めしをいただくことに。
道の駅はこんな天気にも関わらず、多くの人で賑わっていた。みんな意外と平然としている感じだ。それでも多少は少ないのかもしれない。並ぶようなこともなく、すんなり席もゲットし、鯛めしにありつけた。ただ全身びしょ濡れのオッサンであるため、できるだけ端っこの席に、存在感を消してというか、結構凹みながら黙々と鯛めしを食べたのだった…。
サイクリストウェルカムなホテル
実はまだ13時過ぎ。ホテルのチェックイン時刻にも早すぎる。スマホのバッテリーもあとわずかだったので、まずは恒例のマクドで充電タイム。
マクドの外では駐車場の整理をしている警備員さんが、これまた全身ズブ濡れで働いている。こちらはズブ濡れといっても好きでやっていることなので、なにか申し訳なくなる。
マクドでホットコーヒーを頼んで時間を潰すが、やはりこの時期の室内はどこもクーラーが恐ろしく効いている。まっ、乾いた服を着ている人にとってはそれがちょうどいいんだろうけど、私にとっては冷蔵庫に入ったような寒さだ。
結局ここも長居できず、ちょっと早めだがホテルへ向かうことにした。
「宇和島オリエンタルホテル」は、四国一周おもてなしサポーターに認定されたホテル。
おもてなしサポーターの認定施設だが、実はこの旅で初めて利用することとなった。
ホテルのレストランなどはないため、基本素泊まりのプランのみ。よって安い! しかも1階ロビーでは日替わりの愛媛特産オレンジジュースが試飲できるほか、コーヒーや紅茶が飲み放題である。
一番のポイントは1階ロビーから直結になっているローソンがあるところ! これは今から台風でビバークするという状況を考えると、これ以上ない施設環境なのである。
いざとなれば食糧以外にも電池やお手紙を書く便箋なんかまで手に入るのだ。お酒も選び放題なのがいい。でも、まずは替えのパンツをローソンで購入。ああ、コンビニ様様…。
ホテルに着くと、自転車を拭くタオルまで貸していただけた。びしょびしょのオジサンよりもここはまず自転車が優先だ。ありがたい!
そして今回の部屋は7階。不謹慎かもしれないが、さっき見かけたダムがもし万が一決壊することになっても、何とかなる高さである。
自転車ごと部屋に入れさせてもらえたので、お風呂に入って新品のパンツに履き替えた後は、自転車を綺麗に拭いて、1階でサービスのコーヒーを飲んでくつろいでいた。すると、老夫婦がホテルにやってきた。旦那さんがホテルの表で車を駐車場に止めている間、ロビーにいらっしゃった奥様と少しお話することとなった。
私:「台風いよいよ迫ってきて心配ですね。」
奥様:「そうなの、私この近くで住んでるのだけど、主人と二人今晩はここへ避難に来たの」
私:「そうなのですか。それは大変ですね、あちこち警報もでてるのでそのほうが安心です ね。」
奥様:「あなたはどちらから?」
私:「僕は今、自転車で四国一周の最中なんですが、この台風をこちらで凌ごうかと…」
奥様:「まあ、それはすごいわねぇ…。一周できるといいわね。」
と、他愛もない会話。しかし避難の方に出くわしたことで、ようやく台風が目前という実感と、ここアブねえんじゃねえか?という気になってきた…。
ママチャリ並みの台風イチマル号、またさらにスピードを落とし三輪車並みである。それでも明日の正午あたりに遂にここにやってくるのだ。
わざわざ台風に巻き込まれに行った大バカ者になるか、無事四国一周を果たす英雄になるのか、運命は明日決まる。
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